ノスタルジックな台湾の山あいの町「九份」|映画の世界を旅する一日

ノスタルジックな台湾の山あいの町「九份」|映画の世界を旅する一日

赤い提灯が灯る石段の路地、山あいから望む海の風景、そしてどこか懐かしいノスタルジー――。台湾北部の山間にある九份(きゅうふん)は、かつて金鉱で栄えた歴史と、独特の風情が融合した人気観光地です。ジブリ映画の世界を思わせるような景観と、素朴な台湾グルメが楽しめるこの町は、台北からの日帰り旅行先としても注目を集めています。

九份の歴史と映画がもたらした再生

九份(きゅうふん/ジォウフェン)は、台北から車で約1時間、台湾・新北市瑞芳区に位置する山間の町です。19世紀末の1890年頃、この地で金鉱が発見され、「黄金の町」として一時は大いに栄えました。特に日本統治時代(1895年~1945年)には、日本人技師の導入により採鉱技術が進歩し、九份は日本人や台湾人鉱夫でにぎわいを見せました。街中には今も当時の面影を残す石段や日本式建築が点在し、ノスタルジックな雰囲気を漂わせています。

しかし、1970年代に金の採掘が終了すると、九份の町は急速に衰退。人々が離れていき、かつての活気は失われていきました。

映画『悲情城市』が呼び起こした再生

九份が再び脚光を浴びたのは、1989年に公開された台湾映画『悲情城市(英題:A City of Sadness)』の舞台となったことがきっかけでした。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督によるこの作品は、台湾現代史の暗部「二・二八事件」を描いた社会派映画であり、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。九份の石段や古民家を背景にした映像美が国際的にも注目され、多くの人が九份を訪れるようになりました。

映画の効果は絶大で、「忘れられた町」だった九份が再生を遂げ、アートと歴史が交差する観光地へと変貌を遂げました。

『千と千尋の神隠し』のモデルとの噂

さらに、2001年に公開されたスタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』に登場する幻想的な街並みが、九份に似ていると話題になり、国内外の旅行者の関心がさらに高まりました。特に夕暮れ時に灯る赤提灯や、階段沿いに並ぶ茶藝館や食堂の風景は、映画のワンシーンを彷彿とさせるといわれています。

なかでも「阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)」は、映画の中に登場する湯婆婆の湯屋を思わせる外観で、多くの観光客が足を運ぶ人気スポットです。ただし、スタジオジブリ側は公式に九份をモデルと認めておらず、「インスピレーションの一部かもしれない」と留めています。

現在の九份:ノスタルジックと幻想が共存する町

現在の九份は、レトロな街並みと映画的風景が融合した独特の雰囲気で、台湾を訪れる人々にとって必見の観光地となっています。名物のタロイモ団子「芋圓(ユーユェン)」や台湾茶を楽しめる茶藝館が立ち並び、迷路のような石段を歩くだけでも非日常を味わえる場所です。

また、週末や連休中は観光客で非常に混雑するため、朝早い時間帯や平日を狙って訪れるのがおすすめです。

 

赤い提灯が照らす幻想の階段「豎崎路(すざきろ)」

九份を象徴する風景といえば、やはり「豎崎路(Shùqílù)」。石造りの階段が続くこの小道は、九份の中心部に位置し、観光客にとって欠かせないスポットです。坂の両側には、古い日本統治時代の面影を残す木造や煉瓦造りの建物が軒を連ね、伝統と異国情緒が交錯するノスタルジックな雰囲気に包まれています。

特に印象的なのが、夕暮れから夜にかけて灯る赤い提灯。階段全体が柔らかな光に包まれ、まるで映画のセットに迷い込んだかのような幻想的な空間が広がります。この光景は、台湾旅行のSNS投稿やフォトスポットとしても人気で、多くの旅行者がシャッターを切る定番の風景となっています。

豎崎路には、老舗の茶藝館や郷土料理を提供するレストラン、レトロ雑貨や手作りアクセサリーなどを扱う土産物店が並び、歩くだけでも飽きることがありません。「阿妹茶樓」や「海悦楼茶坊」などの名物茶館では、台湾茶を味わいながら、山と海が織りなす九份の絶景を楽しむことができます。

階段は急勾配で足元に注意が必要ですが、その分、上るごとに変わる風景や、細い路地に隠れたスポットとの出会いも魅力の一つです。途中で振り返ると、提灯が灯る階段と山の稜線が織りなす絵画のような景色が広がり、まさに「歩いて楽しむ九份」の醍醐味を味わえます。

グルメ天国・九份で味わうローカルスイーツ

グルメもまた、九份観光の大きな楽しみのひとつ。中でも、必ず味わっておきたいのが九份名物の「芋圓(ユーユェン)」。タロイモやサツマイモ、緑豆などを練り上げて作られた色とりどりのもちもち団子は、見た目も味も楽しく、冷たいかき氷や温かいシロップスープと一緒に味わうのが一般的です。山あいの涼しい空気の中でいただく一杯は、どこか懐かしく、心までほっとする味わい。九份で最も有名な老舗「阿柑姨芋圓」では、店のテラス席から絶景を眺めながら味わうことができ、観光客の定番スポットとなっています。

ほかにも、ユニークな地元スイーツが盛りだくさん。たとえば、「花生捲冰淇淋(ファーシェンジュエン・ビンチーリン)」は、甘じょっぱいピーナッツの粉とパクチー、バニラアイスをクレープのような薄い皮で巻いた南国らしい味の組み合わせ。意外な組み合わせながら、台湾らしい甘さと香ばしさがクセになります。

また、「阿蘭草仔粿(アーラン・ツァオザイクゥオ)」は、ヨモギを練り込んだもちもちの生地の中に、甘く煮た緑豆や肉味噌を包んだ素朴な伝統菓子。ひと口ごとに自然な香りが広がり、昔懐かしい台湾の味を感じさせてくれます。

九份の路地を散策しながら、屋台や小さな店で地元のスイーツを食べ歩くのも、この町の楽しみ方のひとつ。どれも手頃な価格で気軽に試せるので、ぜひ色々なおやつを味わってみてください。

アクセスも簡単!台北から1時間の旅

九份は、台北からわずか1時間ほどで訪れることができる人気の山間観光地。アクセスのしやすさも、気軽な日帰り旅行先として選ばれる理由のひとつです。

【1】バスでダイレクトに行く(最も手軽)

最もシンプルな方法は、台北MRT忠孝復興駅(出口2)付近のバス停から出ている「基隆客運1062番バス」に乗るルート。九份老街バス停まで直行で、所要時間は約90分(渋滞時を除く)です。乗り換えがなく、運賃も安いため、初めての旅行者にもおすすめです。

  • 乗り場:MRT忠孝復興駅出口2付近(復興南路)

  • 料金:大人 約100元(ICカード利用可)

  • 注意点:帰りの便は混雑することがあるので、時間に余裕をもって行動を。

【2】電車+ローカルバスで行く(風景も楽しめる)

台北駅から台湾鉄道(TRA)で「瑞芳(ルイファン)駅」まで移動し、そこからバスやタクシーで九份へ向かうルートも人気です。電車は約40分で到着し、途中の車窓からローカルな街並みも楽しめます。

  • バス移動:瑞芳駅前から788番・825番・827番などのバスで九份老街下車(約15~20分)

  • タクシー移動:瑞芳駅から九份まで約15分、料金は平日約200元前後

【3】ツアーで効率的に巡る(多言語ガイド付き)

十分のランタン上げ体験や、猫好きに人気の猴硐(ホウトン/猫村)などと組み合わせた日帰りオプショナルツアーも多数あり、日本語対応ガイド付きプランも充実しています。移動や待ち時間の心配がないため、短期滞在の旅行者や家族連れにも最適です。

【旅行のヒント】

  • 九份は夕方から夜にかけて混雑するため、午前中の出発がおすすめ。

  • 雨が多い地域なので、折りたたみ傘滑りにくい靴を用意しておくと安心です。

  • バス停「九份老街」から豎崎路までは徒歩すぐですが、階段が多いためキャリーバッグは避けたほうが無難です。

 

夕暮れからが本番。提灯の灯りに包まれる時間

日中の九份も賑やかで見どころが多いですが、本当の魅力が姿を現すのは、夕暮れ以降のひととき。山の稜線に沈む夕陽が空を茜色に染める頃、町中の軒先や石段沿いに吊るされた赤い提灯が一斉に灯り始めます。淡い光が石畳を照らし、町全体が一気に幻想的な雰囲気へと変貌を遂げるその瞬間は、まさに“映画のワンシーン”に入り込んだような感覚に。

特に、豎崎路周辺はこの時間帯が最も美しく、多くの旅行者がこの景色を求めて集まります。混雑は避けられませんが、それでもこの“魔法の時間”を逃す手はありません。階段の途中で立ち止まり、ゆっくりと周囲を見渡してみてください。提灯の揺れる音、遠くから聞こえる茶館のざわめき、山間を吹き抜ける風——五感を通じて味わう九份の夜は、言葉では表しきれない魅力に満ちています。

おすすめは、人気の茶館「阿妹茶樓」や「海悦楼茶坊」などで、台湾茶と茶菓子を味わいながら夜景を楽しむこと。混雑を避けたい場合は、早めに席を確保し、日没前からゆっくりと過ごすのがベストです。店内の窓から見下ろす九份の街並みと提灯の灯りは、旅のクライマックスにふさわしい絶景です。

台湾を訪れるなら、ぜひ足を運びたいノスタルジックな町「九份」。歴史、映画、グルメ、そして風景が一体となったこの地で、忘れられない旅のひと幕を味わってみてください。